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葬儀のVR360度ライブ配信:今、そしてこれからの新たな弔い方

葬儀は、大切な人の死を弔うにあたり重要な役割を果たします。故人をよく知る人たちと共にその人の人生を祝福し、お別れを告げることができるのです。葬儀への参列を拒まれることは、すでに悲しみに暮れている人にとってこの上ない苦しみとなります。

グローバル化した現代社会においては、誰もが急遽葬儀に参列することは容易ではありません。特にコロナ禍においてロックダウンや外出制限といった事態が広がるにつれ、以前と全く同じ形式での葬儀はほぼ不可能になりました。そこで徐々に台頭しているのが、葬儀のVRライブ配信サービスです。

2019年、米国国内の葬儀場の20%が何らかの形でライブ配信サービスを提供したと推測されています。新型コロナウイルスの感染拡大により、このようなサービスに対する需要は全世界で急速に高まり、実際に体験した人からは「驚くことに、大切な人を親身に弔うことができる」といった声が寄せられています。360度VR葬儀ライブ配信では、リモート参列者は完璧な画質と音声で葬儀を視聴し、まるでその場にいるかのような感覚が得られるのです。

異業種の三社が連携

自分たちでライブ配信を行う家庭もありますが、専門的なサービスを自社で提供できる葬儀場は、顧客のニーズにより応えることで、競合他社に対する優位性を確立できます。このような背景から、日本のある三企業はそれぞれ異なる業界に属しながら、Insta360 Pro 2を使用して葬儀のライブ配信システムを共同開発しました。

本プロジェクトに携わった企業は次の三社。
北関東互助センター:葬儀場「とわノイエ」運営会社
ビジネスシステム通信:業務用システム納入事業者
TechWave.jp:IT文化関連ニュースメディア運営会社

今回は、TechWave.jp 代表取締役兼編集長の増田真樹(ますだまさき)氏を中心にお話を伺いました。

栃木県宇都宮市の葬儀場「とわノイエ」
栃木県宇都宮市の葬儀場「とわノイエ」

ご自身及び御社のご紹介をお願いします。

TechWave.jpというITカルチャー創出をテーマとしたメディアを運営しています。ウェブニュースを筆頭に動画配信、コミュニティ運営、イベント運営、さまざまな事業支援を展開しています。

TechWaveの「葬儀場の360ライブ配信システム構築」では、使用策定及び機器検証などに関わりました。企画そのものは、葬儀場「とわノイエ」の経営者が発案し、地域の業務用システム納入事業者で技術的知識の豊富な「有限会社ビジネスシステム通信」が設置導入を主導するなど複数の企業が連携して実現しました。

お葬式を360度VRカメラを使って撮影するきっかけは何でしたか?

世界に先駆けて高齢化が進む日本は、いわば葬儀関連事業で激戦が繰り広げられる状況。

日本では大規模なホールで何百人もの人が参列する葬儀が一般的でしたが、時代の変容により少人数での葬儀ニーズが増えている状態でした。かつ、新型コロナウイルスの感染拡大により、葬儀に参列したくてもできない人が出てきている状況で、この小規模な葬儀に注目が集まっていました。

とわノイエを運営する北関東互助センターで360ライブシステムを担当したチーム
とわノイエを運営する北関東互助センターで360ライブシステムを担当したチーム

とわノイエを運営する北関東互助センター 代表取締役社長 中山浩(なかやまひろし) 氏(上写真中央)は「新型コロナウイルスでもたらされた新しい日常は、もう戻ることは考えられない。以前に戻ることは100%ないと思っています。おそらくITやインターネットに頼らなければいけないこともあるのでしょう」と話します。

「しかしながら、葬儀というものは、死と向かい合って人生というものに区切りをつけるものです。人と人とのふれあいのもとで心にけじめをつけなければいけない。それは葬儀場を経営する私たちの強い思いでもあるのです。」

技術力の高さで定評を受けている有限会社ビジネスシステム通信 代表取締役社長 平井万紀雄(ひらいまきお)氏はその課題を耳にし、「責任を持ってその課題を解決するには最高の360度システムしかありえない」と考えました。

しかしながら、360度カメラのテクノロジーやライブ配信などは、非常に新しい技術で構成されたプラットフォームであり、さまざまなソフトウェアやオンラインサービスの進化に向き合う必要がありました。当然ながら、葬儀場で運用するためには、専門家ではない人が操作できる必要があり、より多くの人が観られる必要があります。その選定には困難を極めました。

そこでTechWave.jpではビジネスシステム通信からの依頼を受け、現時点で最も将来性があり、最も安定的に動くものを選定。複数メーカーの機器で4Kクラスの映像のテストを行いました。通信帯域や電波干渉の問題、使い勝手の問題、解像度や画角、光学特性、ソフトウェアの性能などに注目しベンチマークを行いました。

Insta360 Pro 2を選んだ理由を教えてください。また、葬儀場スタッフがPro 2を使用するにあたり、カメラのパフォーマンスはいかがでしたか?

Insta360 Pro 2 - VR 葬儀ライブ配信カメラ
Insta360 Pro 2 - VR 葬儀ライブ配信カメラ

システムの納品および設営を担当するビジネスシステム通信 平井社長は、初めからInsta360 Pro 2が最有力候補であると考えていました。「たった一度の人生を彩る葬儀を伝え、残すという意味で、最も美しく伝えられる機器が必要」であり、かつ誰もが使える一般層向け機器ではない、専門知識がある業者がタッグを組むことで最高のパフォーマンスを発揮できると考えたのです。

有限会社ビジネスシステム通信 代表取締役社長 平井万紀雄氏
有限会社ビジネスシステム通信 代表取締役社長 平井万紀雄(ひらいまきお)社長
地域のさまざまな課題を解決し活性化することに尽力。中国深センにも展開しており、さまざまな機器を中国の企業と連携しながら展開している。

スペック的には申し分ない。しかしながら、限られた葬儀場のスペースの中で、大きめのサイズの球体ボディで本当に臨場感のある葬儀配信ができるか、また想定する機器構成で安定したパフォーマンスを発揮してくれるのか?といった疑問がありました。

VR葬儀設営の様子
VR葬儀設営の様子

今回のプロジェクトで最も大切なのは、葬儀場のスタッフが、人生の別れを告げる方々の意思を妨げず、最高のクオリティで記録配信できるか?ということです。

まずカメラをどこに配置すれば、参列者の方の気持ちを妨げず撮影できるのかを施設の工事段階から考えました。関係者全員が、照明や空調、椅子やテーブルなどの配置などを含め、最高のポジションを探ったのです。

葬儀場に設置されたInsta360 Pro 2
葬儀場に設置されたInsta360 Pro 2

結果的に最前列で天井から釣る方法を選びました。これにより誰もInsta360 Pro 2の存在を気にすることなく、かつ最も臨場感高く撮影することができたのです。実際、ライブを観てみると、その臨場感に胸が熱くなるほどです。

また、もう一つの問題はコントローラ(PC)の設置です。葬儀場のなかでPCを操作するわけにもいかず、離れた事務所の一角で葬儀を見守りながら配信するということを考えました。注目したのは通信の安定性です。

こうしたトポロジーデザインを検討する中、Insta360 Pro 2はEthernet経由でリモート操作をすることができるだけでなく、ライブ配信サーバーが本体に搭載されており、実際の機器配置デザインが非常に柔軟であるということが決め手となりました。仮に無線ですべてをやろうとすると、スマホなどを持った人が大勢集まる葬儀場では電波の混線や干渉などの不安があったのです。

また、配信している映像は、PCに同時にアーカイブすることができるだけでなく、なにか問題があったときは本体内蔵のメモリーカードの力を借りてバックアップすることも可能と、リスク対応についても完璧ともいえる内容でした。

VR 葬儀をどのようにライブ配信しましたか?

とわノイエでは、ご高齢の方までより幅広い方にご視聴いただけることを主眼に、日本国内で利用者が多いYouTubeを配信プラットフォームに選択しました。設営時点で、YouTube側の制限で解像度が3844x1992に制限されていたため、現状この解像度での運用を行っています。後日再生用のアーカイブはYouTubeライブに任せています。

この点、利用者ニーズの拡大にあわせ、より高解像度な配信に切り替えていきたいと考えていくほか、単独のデバイスやアプリなどでも長くお楽しみいただけるような企画も視野に入れています。

また、別途ファイルでダウンロードしてアーカイブしており、葬儀の振り返りが行えるような展開も話が出ています。

VR葬儀はどのように視聴される場合が多いですか?

日本は360およびVRを生み出す技術者は多く存在しているものの、一般の人々が日々360度コンテンツを楽しむ状況にはまだありません。しかしながらYouTubeを筆頭とする動画配信プラットフォームの利用者が増加しており、新型コロナ禍の中でさらにマーケットが拡大している状態です。

ただ現時点では平面ディスプレイでの視聴が圧倒的です。ヘッドマウントディスプレイのような機材を使ったときのような臨場感はないものの、スマートフォンはもちろんタブレット・PC、そして大画面テレビでお楽しみいただけるため、現時点でより多くの方に利用できる形態なのではとチーム一同考えています。

また、実際の配信は、想像以上の臨場感がありました。ヘッドセット型でなくても、PCやテレビのフラットな画面でも十分な画質で、まるでその場にいるような、心から弔いができる内容になりました。

iPhoneでの葬儀視聴
iPhoneでの葬儀視聴

葬儀場側からのVRライブ配信技術へのリアクションはいかがでしたか?

とわノイエを運営する北関東互助センターの中山社長は次のように語っています。

「スマートフォンの普及により、インターネットの活用が劇的に増えてきました。より簡単にいろいろな事ができるようになってきています。新しいタイプの葬儀場の需要も拡大し、活性化してきたのは事実です。

ただし、そこに“尊厳”というものがあるのか?という課題を感じ続けています。死というものに向き合う葬儀という場に、人生のケジメを見出すことができるかどうか。そこだけは妥協できない部分なのです。

ニューノーマルの時代になり、これまでのように大人数を一堂に集める葬儀は限られてくるのは確実だと考えています。その中でも、葬儀のグレードを下げずに、尊厳を維持できる取り組みに挑戦し続けることが私たちにできることだと思いますし、今回の取り組みは未知への扉を開く第一歩となったと考えています。

葬儀業界において、VRは今後どのように活用されると思いますか?

この数年、いくつかの葬儀場がビデオ配信を行っていました。ただ、それほど大きく反響を呼ぶものではありませんでした。しかし、今回のInsta360 Pro 2の取り組みは非常に多くの人から反応を得ることができました。葬儀場関係者からは「画期的」「カメラの台数を増したらどうなる」とか「あの場所に設置すべき」という声が広がっています。

新しい技術で、まだまだ観る側への教育や利用者を増やす必要があり、事業者としても実証が必要な状況ではありますが、VRの流れは着実に拡大しているように思います。今後、結婚式やイベントなどの配信が拡大するでしょう。私たちは今回の経験をアップデートして、よりグレードの高い刺激的な体験を想像していきたいと考えています。

今回ご協力くださった増田真樹(ますだまさき)氏ことMaskinさんによる、本プロジェクトの特集記事はこちら


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